三菱商事、FITの2倍超のFIP価格でも採算見込めず、洋上風力3案件からの撤退を正式発表

2025年8月31日
三菱商事は記者会見を行い、撤退の経緯を説明した

三菱商事は8月27日、日本初の洋上風力第1ラウンドの公募で落札した3海域(合計出力:1.7GW)すべてから撤退することを正式に発表した。これにより、すでに報道されていた撤退の方針を正式に裏づけられた形となる。

同日行われた記者会見で、代表取締役社長の中西勝也氏は、落札時のFIT価格の2倍以上となるFIP価格であっても採算が取れず、事業継続は困難と判断したと説明した。

三菱商事によると、2021年の落札以降、「経済情勢を含めた事業環境の激変」が撤退の理由であると説明した。具体的には、サプライチェーンのひっ迫、インフレ、為替変動、金利上昇などを挙げている。これを受けて、2025年2月から事業性の再評価を実施していた。

中西氏は、2021年の入札時点では採算の確保が可能と判断していたことを強調し、当時の入札価格自体が原因ではないと述べた。

同会見で三菱商事は、入札時の想定に比べて建設コストが2倍以上に増加しており、今後さらに変動する可能性もあるとの見解を示した。サプライヤーの変更、スケジュールの調整、FIP制度への移行など複数のシナリオを検討したものの、いずれも採算性が見込めなかったとしている。

三菱商事が主導するコンソーシアムは、以下の事業規模とFIT価格で3案件を落札していた。

  • 秋田県能代市、三種町及び男鹿市沖 (478.8MW、13.26円/kWh)
  • 秋田県由利本荘市沖 (819.0MW、11.99円/kWh)
  • 千葉県銚子市沖 (390.6MW、16.49円/kWh)

これらは、第1〜第3ラウンドで落札された洋上風力案件全体の約40%の設備容量に相当する規模であった。

今回の撤退により、経済産業省および国土交通省の「公募占用指針」に基づき、コンソーシアムは最大で約220億円の保証金を失う見込みとなる。三菱商事は、撤退に伴う損失額を明示しなかったが、2024年度に約520億円の減損損失を計上済みであり、追加の損失は限定的との見方を示した。また、3案件すべてに参画予定だったシーテックの筆頭株主である中部電力は、2025年度に約170億円の関連損失を計上する見通しを発表している。

今後の洋上風力発電の公募ではFIP制度が適用されており、第2・第3ラウンドでの5案件中4件は「ゼロプレミアム」(3円/kWh)で落札された。そのため、開発事業者が高値のPPAを確保できなければ採算を取るのが困難となる。中西氏は「FIP価格が20円/kWhを超えても事業化は難しい」と示唆したこともあり、今回の撤退は、第2ラウンド以降の落札事業者にとっても現実的なリスクが顕在化したことを示すものとなった。

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